なぜ働くのか
2022年09月02日(木)
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マルティン・ルターはどのように亡くなったのか

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マルティン・ルターは、1546年2月18日に亡くなりました。その一ヶ月前、彼は友人に年齢からくる衰弱を訴える手紙を書いていました。「私は、年老いて、疲れ、怠けるようになり、体力も消耗し、体は寒さで震え、それに加えて、片目も失明してしまった」 そして、こう嘆いています。「半死半生の私は、ただ静かに暮らしたい」

しかし、ルターの静かな暮らしは叶いませんでした。彼の故郷アイスレーベンが、危機に直面していたのです。民衆の秩序、さらには教会の秩序までもが脅かされるような論争が起こっていました。疲れ果てていたルターでしたが、この論争を収めるために故郷に向かうことを決意します。ルターは三人の息子と数人の召使を連れて、ヴィッテンベルクを出発しました。そして、ハレに到着します。雹と嵐で、川を渡るのは大変な苦労を伴いました。ルターは、ボートに向かって流れてくる氷の塊を、アナバプテストの反対派、ローマ・カトリックの司教や教皇と交互に名付けていたといいます。半死半生と言いつつも、彼のユーモアは健在だったようです。

ハレは、ルターの長年の仲間であるユストゥス・ヨナス博士の故郷でした。1519年に起こったライプツィヒでの論争以来、ヨナスはルターの最も近い弟子の一人でした。ヨナスは、ヴォルムス帝国議会でルターのすぐ側に立っていました。ルターがヴァルトブルクに亡命している間も、ヨナスはヴィッテンベルクで宗教改革を前進させています。そして今、ユストゥス・ヨナスは、ルターの最後の旅に同行することになったのです。

ルターと、その旅を共にした一行は、ついにアイスレーベンに凱旋しました。ルターは群衆の喝采を受け、騎馬隊に護衛されながら、故郷の英雄として迎え入れられました。1月31日の日曜日には、ルターは説教をしています。

しかし、旅の疲れは誤魔化すことができませんでした。ルターは愛するケイティに、吹き付ける風と凍えるような雨、そして何よりも氷の塊の脅威について書いています。ルターは重い病気を患いました。ルターの部屋のすぐ外では、手のつけようのない火災が発生し、ルター の命を脅かしていました。ルターの部屋でさえ、安全とは言えませんでした。壁から漆喰が落ちてきて、壁に埋め込まれた石がいくつか外れていました。枕ほどの大きさの石が、もう少しでルターの頭の上に落ちるところだったといいます。このような災難が重なり、ケイティは家で不安を募らせるばかりでした。ケイティは心配でたまらず、すぐさま手紙を書き送っています。ルターは、彼女が恋しいと返事を書き、さらにこう書き添えました。「私には、あなたや天使たちにもまさる世話係がついている。主は飼い葉おけに寝て、母の乳を飲みながら、全能の父である神の右手に座っておられる」 [訳注:別訳あり。「私は君やすべての天使よりも心配してくださる方を持っている。この方は飼い葉桶に横たわり、マリアの胸に抱かれ、同時に全能の父なる神さまの右手に座っていらっしゃるのです」 T・G・タッパート編『ルターの慰めと励ましの手紙』内海望訳、リトン、2006年、126-7頁]

ルターがその手紙を書いたのは、2月7日のことでした。その11日後、彼はついに息を引き取りました。彼の生誕の町アイスレーベンは、のちに彼の死の町としても知られることになります。ルターの三人の息子は、父の遺体に付き添ってヴィッテンベルクに戻り、そこには追悼の意を示そうと多くの人々が集まったといいます。

ルターは死の直前、アイスレーベンの臨終の床から、彼の最後となる説教をしました。その「説教」は、詩篇と福音書から、二つのみことばを引用しただけのものでした。詩篇68篇19節から、「ほむべきかな 主。日々 私たちの重荷を担われる方。この神こそ 私たちの救い。」そして、ヨハネの福音書3章16節を引用しました。私たちの神は、まさに救いの神です。その救いは、御子の御業によってもたらされるのです。

画家ルーカス・クラナッハは、最後の追悼を友人に捧げました。その絵は現在、ヴィッテンベルク城付属聖堂の祭壇を飾っています。ルターが説教をし、群衆がそれを聞いている姿を描いた絵です。クラナッハは、ルターの妻ケイティを絵の中に描き込みました。また、13歳で亡くなったルターの娘のマグダレーナも描かれています。ルターと信徒との間にいるのは、キリストです。ルターはキリストを説き、キリストの十字架を説きました。そして、ルターの説教を聴く群衆は、ルターを見るのではなく、キリストを見、キリストが十字架にかけられる姿を見たのです。それこそが、ルターの遺産でした。

そして、この遺産は、ルターの生きた時代を超えて広がっています。

1940年、W・H・オーデンは、ルターとその遺産への賛辞の詩を贈りました。彼はその短い詩を、次のような言葉で締め括っています。

あらゆる業 権威者 社会が悪かった

「義人は信仰によって生きる…」 彼は慄き叫ぶ

男も女も この世の者は喜んだ

今まで気にも留めず 震えることもなかった者たちが

この記事はリゴニア・ミニストリーズブログに掲載されていたものです。
スティーブン・J・ニコルス
スティーブン・J・ニコルス
スティーブン・J・ニコルス博士は、Reformation Bible Collegeの学長、リゴニア・ミニストリーズの学術部門主任、並びにリゴニアの専属講師を務めている。彼はポッドキャスト番組『5 Minutes in Church History』と『Open Book』のパーソナリティーも務める。著書も多く、『For Us and for Our Salvation』、『Jonathan Edwards: A Guided Tour of His Life and Thought』、『Peace』、『A Time for Confidence』などがある。また共同編集者として、『The Legacy of Luther』および 『Theologians on the Christian Life』シリーズ(Crossway出版)がある。ニコルス博士のツイッターアカウントは @DrSteveNichols